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交通事故事件の流れ
交通事故の事件が解決するまでには、以下の流れを経るのが一般的です。
以下では、交通事故の被害者が気をつけるべきことを場面ごとにご説明いたします。
①交通事故の発生 ↓ ②怪我の治療 ↓ ③症状固定 ↓ ④後遺障害の等級認定 ↓ ⑤示談交渉 ↓ 裁判 |
①交通事故の発生時に行うべきこと
本項目では、交通事故の被害者が事故直後に行うべきことを、重要度の高いものから順番に説明いたします。
1.警察への連絡
交通事故に遭われたら、まずは警察に連絡をしてください。
警察への届け出を行わないと、以下の不利益を被る可能性があります。
- 交通事故証明書が発行されないことによる不利益
交通事故証明書は、自賠責保険やご自身の保険金請求をする際に提出を求められる書面ですが、交通事故の届け出を警察にしていないと発行してもらうことができないため、保険金を受け取れない可能性が生じます。
また、交通事故証明書がないと、加害者への請求時に事故が発生した事実そのものを否認される可能性が生じます。 - 警察が捜査をしてくれない可能性がある
警察は、人身事故の事案では実況見分調書という事故時の状況を説明する文書を作成しており、過失割合に争いがある事案では真相解明に役立つこともあります。しかし、交通事故の届け出をしなければ捜査そのものが始まらず実況見分調書も作成されない可能性が生じます。 - 刑事罰の可能性
交通事故を起こした車両の運転者には、事故内容を警察に届け出る義務が課されています(道路交通法第72条1項後段)。この届出義務は車両の運転者であれば被害者にも課されており、条文上は、届出義務に違反すると三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に付される可能性があります(道路交通法第119条10号)。
2.加害者の氏名等を記録する
交通事故の加害者から以下の資料を見せてもらい、写真やメモをとるなどして情報を記録して下さい。
- 運転免許証
→加害者の住所・氏名・免許証の番号 - 名刺や社員証
→加害者の勤務先(勤務中の事故や任意保険未加入の場合の差押を想定) - 自賠責保険証明書
→自賠責保険の会社名と証明書番号 - ナンバープレート
→加害者の車両の登録ナンバー - 口頭での質問
→加害者の電話番号・任意保険の会社名
3.目撃者の連絡先を記録する
交通事故の目撃者がいる場合、念のためその人に連絡先を尋ねておいてください。
目撃者は事故態様が争いとなったときに証言をしてくれる可能性がありますが、事故現場を離れたあとはヒントすらなく二度と連絡をできないことが多いです。
4.加害者の言い分を記録する
交通事故の当事者は、時間の経過とともに事故態様について説明内容を変遷させることがあります(自分を正当化させる方向での変遷)。
事故態様について加害者と話をした際は、会話内容を録音しておくことで、事実に反する主張を一定程度封じることができます。
5.ご自身の保険会社への連絡
保険の中には、100%の被害者であっても使用したほうがよいものもありますので、ご自身が契約されている保険会社への連絡も必ず行うべきです。
②怪我の治療の場面で気をつけること
1.通院は早急に行ってください
交通事故の発生から時間が経過した後で病院に行くと、相手方から「その症状は交通事故とは関係がないのではないか?」と言われる可能性が生じます。
このような無用のリスクを避けるためにも、事故後に身体に異変を感じたときは、事故の当日または翌日に病院を受診されることをおすすめします。
2.精密検査は早めに受けたほうが良いです
交通事故による外傷の中には、レントゲンには写らないけれど、CTやMRIを撮影すれば確認をすることができる怪我というものが相当数あります。
ところが、交通事故から何ヶ月も経ってからCTやMRIを撮影すると、「事故直後にはその怪我はなかったのではないか?」という疑義が生じることがありますので、これらの精密検査は早い段階で行った方が良いです。
特に、頭を打って高次脳機能障害が生じる可能性がある事案では、事故から数カ月間の画像の変化が重要になりますので、必ず精密検査を受けるべきです。
精密検査の要否は病院の先生が判断することですが、被害者からの質問をきっかけに検査をするケースもありますので、精密検査の要否について先生に一言尋ねておくと良いといえます。
3.健康保険又は労災保険を利用した方が良いです
病院で怪我の治療をされる際は、健康保険又は労災保険を使うべきです。詳しい説明は割愛しますが、被害者側に過失がある事案や加害者が任意保険に加入していない事案では、健康保険又は労災保険を使用することで、最終的に手元に入ってくるお金が増える可能性があるからです。
病院によっては「交通事故で健康保険は使えない。」と言ってくることがありますが、交通事故の怪我の治療に健康保険を使えないということはありません。
4.治療の打ち切りについて
交通事故の事件では通院が長引けば長引くほど賠償額が高額になる傾向があるため、保険会社は一定の治療期間が経過すると「治療を打ち切りにしてください。」と言ってくることがあります。
しかし、「治療を打ち切りにしてください。」という発言をそれほど重く受け止める必要はありません。
なぜならば、仮に保険会社が治療費の支払を打ち切ったとしても、被害者が自ら治療費を出して治療を続けることはできますし、裁判所が治療の必要性と相当性を認めてくれれば打ち切り後の治療費の請求もできるからです。
保険会社が治療の打ち切りを切り出してきたとしても、治療をいつまで続けるのかということは、基本的には主治医の判断に従うべきです。
5.整骨院への通院について
整骨院には、病院ではないという理由で裁判所が治療費の請求を認めてくれない可能性があるというデメリットがありますが、一方で、ご自宅の近くで施術を受けられるというメリットもあります。
整骨院に通院をされる際は、①整形外科の医師に整骨院に通うことを伝えて了解を得る、②整形外科にも定期的に通う、③可能であれば保険会社の一括対応で整骨院の費用を支払ってもらう、等の配慮をすることで、治療費を回収できないリスクを一定程度下げることができます。
③症状固定について
1.症状固定の意味
症状固定とは、怪我に対して一般的な治療を続けても改善が見込めない状態になることをいいます。
2.症状固定後は治療費を請求できない
症状固定日以降に行われた治療に関しては原則として治療費を請求することができません。なぜならば、症状固定をすると、それ以降の治療は改善が見込めず意味がない治療と評価されるからです。
誤解しがちなこととして、症状固定後も自費で治療を続けることは可能です。症状固定後も治療は続けられますが、治療費を相手方に請求することができなくなります。
3.症状固定日の症状を後遺障害として評価する
交通事故の実務では、症状固定の時点で治りきっていない症状がある場合に、当該症状を後遺障害として評価します。そのため、症状固定日は、後遺障害の有無と内容を判断する基準日としての役割を果たしています。
4.症状固定日をいつにするか
症状固定=治療を続けても改善が見込めない状態を意味しますので、いつをもって症状固定日とするのかは、主治医の先生の意見に従うのが基本となります。少なくとも、保険会社が「症状固定をしているから治療を打ち切りにします。」と言ってきたからといって、治療を止めるべきということにはなりません。
5.症状固定をするとどうなるか
後遺障害の等級認定手続を始めることが可能になります。
④後遺障害の等級認定について
1.後遺障害の等級認定とは
交通事故の後遺障害については、自動車損害賠償保障法施行令という政令の別表第一、第二に計16種類の等級とその内容が定められています。
後遺障害の等級認定とは、被害者に残った後遺障害が、上記16種類のどの等級に該当するのかを判断する手続です。
2.後遺障害の等級認定の重要性
後遺障害が残ったことによる損害には、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益がありますが、これらの金額は、後遺障害が上記16種類のどの等級に該当するのかをもとに計算されます。
ご参考までに、赤い本には後遺障害慰謝料の金額として以下の記載があります。等級によって賠償額は大きく変わるため、等級認定の手続は非常に重要です。
第1級 | 第2級 | 第3級 | 第4級 | 第5級 | 第6級 | 第7級 |
2800万円 | 2370万円 | 1990万円 | 1670万円 | 1400万円 | 1180万円 | 1000万円 |
第8級 | 第9級 | 第10級 | 第11級 | 第12級 | 第13級 | 第14級 |
830万円 | 690万円 | 550万円 | 420万円 | 290万円 | 180万円 | 110万円 |
無等級 | ||||||
原則0円 |
3.後遺障害の等級認定を行う者
通常の交通事故では、損害保険料率算出機構という団体が設置している自賠責損害調査事務所が等級認定を行います。
ただし、上記の判断は裁判所を拘束しないため、裁判所が自賠責調査事務所と異なる判断を行うこともありえます。その意味では、自賠責調査事務所による等級認定は暫定的な判断といえます。
4.事前認定と被害者請求
後遺障害の等級認定手続には、①加害者の任意保険会社が自賠責調査事務所に対して後遺障害の内容を確認する方法(事前認定)と、 ②被害者が自ら自賠責保険会社に対して保険金の請求を行う方法(被害者請求)とがあります。
被害者請求には、自賠責保険金を示談前に受け取ることができる、提出書類を自分で選ぶことができるというメリットがありますが、一方で手続が煩雑というデメリットがあります。
5.後遺障害診断書は弁護士に見せたほうが良いこと
後遺障害の等級認定をしてもらうためには、必ず、「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」という書式の診断書(後遺障害診断書)を主治医に作成してもらう必要があります。
後遺障害診断書は、後遺障害の等級を認定する資料として非常に重要な書面ですが、等級を認定するための要件を熟知している医師が少ないため、必要な記載の書き漏らしや検査不足が生じる可能性があります。
医師に後遺障害診断書を書いてもらった後は、同書面を保険会社に提出する前に弁護士に見せたほうが良いです。
⑤示談交渉の場面で気をつけること
被害者に弁護士が就いているときは、弁護士が損害の金額を計算し、保険会社に請求書を送って示談交渉を開始します。
一方、被害者に弁護士が就いていないときは、被害者の損害額を計算できるようになった時点で、保険会社が損害額を計算して示談金として提示してきてくれます。
しかし、保険会社が示談金として提示してくる金額は、裁判になったときに認められる金額よりも大幅に少ないことが多いため、この時点で示談に応じることはしないほうが良いです。
一度示談をしてしまうと原則としてやり直しをすることができないため、保険会社から示談金の提示があったときは、必ず弁護士に相談をするべきです。
弁護士に依頼をするメリット
賠償額の増額を期待できる
交通事故の事件処理を弁護士に依頼する最大のメリットは、賠償額の増額を期待できることにあります。
例えば、保険会社は、慰謝料を提示する際、被害者本人に対しては裁判で認められるよりも相当低額な金額を提示してくるのが通常ですが、弁護士に依頼をすることで、示談交渉段階でも慰謝料の大幅な増額がされることが多いです。
また、後遺障害の等級認定の場面では、弁護士が後遺障害診断書のチェックや主治医との面談をすることで、本来認定されるべき等級が認定される可能性が上がります。
さらに、過失割合が争われている事案や、後遺障害逸失利益がある事案では、適切な主張を行うことで賠償額を増額させることを期待できます。
弁護士が保険会社との連絡窓口になる
交通事故の被害者が弁護士に依頼をすると、保険会社はどのような用件でもまずは弁護士に連絡をしてくるようになるため、被害者が保険会社と直接話をするという場面はほぼなくなります。
仕事や家事で忙しい日中に保険会社と話をすることも、ストレスフルな交渉を直接保険会社と行うこともなくなりますので、精神面での負担を軽減することができます。
弁護士への相談を迷っておられる方へ
費用倒れのリスクについて
当事務所は、『特に交通事故の分野では、依頼者様に経済的利益をもたらさない事件は受けるべきではない』との考えから、以下の料金体系をとっています。
① | 初回法律相談 | 無料 |
② | 弁護士費用特約がある場合 | 弁護士費用が300万円を超える高額案件 のみ依頼者様の支払が発生 |
③ | 示談金提示後のご依頼 (弁護士費用特約なし) | 着手金:無料 報酬金:増額額の25% |
④ | 示談金提示前のご依頼 (弁護士費用特約なし) | 着手金:無料 報酬金:経済的利益の11%+11万円 |
①初回法律相談と③示談金提示後のご依頼の場合、依頼者様が弁護士費用で損をされる可能性はなく、②弁護士費用特約がある場合も費用倒れになることはほぼないと言ってよいです。④弁護士費用特約がない示談金提示前のご依頼の場合だけは費用倒れの可能性が生じますが、この点は①初回法律相談時に依頼する価値があるかどうかをご説明いたします。
当事務所の報酬体系の場合、どのような事故であっても、まずは事故直後に相談に来られるのが最適解になると考えています。