家賃滞納者への対応について

家賃の請求と明渡し請求

家賃滞納者に対する対応としては、滞納した家賃の請求と明渡し請求があります。

これらの請求は、どちらか片方だけを請求することもできますし、両方を同時に請求することもできますが、明渡し請求の有無によって必要な手続が異なるため、まず初めに明渡し請求をされるかどうかを決断されたほうが良いです。

明渡し請求をするかどうかの判断基準

オーナー様と賃借人との間に特別な事情や人間関係がない場合、「今後、賃借人や保証人から賃料を支払ってもらうことはできるのか?」という観点から判断をするのが合理的です。

上記判断をするためには、まずは賃借人が賃料を滞納した理由を知る必要がありますので、オーナー様としては、賃料の滞納があった時点ですぐに賃借人に連絡をとり、事情を聞くのが好ましいです。

この時点で賃借人に連絡がとれなかったときは、明渡し請求を選択すべき場合が多いです。

明渡し請求をしない場合の対応

裁判外での交渉

まずは賃借人に対し、裁判外で賃料の支払いを求めることとなります。

このとき、賃借人との人間関係等を気にしなくても良いのであれば、配達証明付内容証明郵便で請求することをおすすめします。

内容証明を利用する理由は、その後の方針変更によって建物の明渡し請求をすることとなった場合のために、何度も催告をしたという事実を証拠化することにあります。

内容証明を利用することに抵抗がある場合には、事情に応じて電話・対面での口頭でのやりとりや普通郵便での請求を選択することとなります。

いずれの方法を選択した場合であっても、賃借人が賃料を支払ってくれないときは、保証人に対しても請求をすることとなります。

裁判での請求

裁判外での交渉で賃料を支払ってもらえない場合、賃借人と保証人の双方に対し、裁判で賃料を請求することとなります。

裁判で賃料を請求する方法には、支払督促・少額訴訟・通常訴訟という3種類の手続があります。

支払督促と少額訴訟には、通常訴訟と比べて手続が迅速に終わる・申立が簡単であるというメリットがありますが、相手方の異議(申述)があったときは通常訴訟に移行するため(民事訴訟法第395条、第373条)、この場合には通常訴訟に移行するまでの時間が無駄になるというデメリットもあります。

また、支払督促は債務者の住所地を管轄する裁判所に申立しなければならないというデメリットもあります(民訴法第383条1項)。

いずれの手続にも一長一短がありますが、賃借人の住所が近い場合には支払督促を、賃貸借契約の内容と滞納の事実を1回の期日で証明できる場合には少額訴訟を検討しても良いでしょう。

強制執行

裁判をしても賃料の支払がない場合は、判決などの債務名義に基づいて強制執行をする必要があります。

強制執行で金銭を回収する場合、不動産・預金債権・給与債権のどれかを差押することが多いです。ただし、裁判所が債務者の財産を探してくれることはありませんので、債権者の側で債務者の財産を特定する必要があります。

賃借人と保証人の財産や勤務先に全く心当たりがない場合には、財産開示という手続がありますが、手続をとっても空振りに終わることが多いのが現状です。

結論を申し上げますと、賃借人と保証人の差押対象財産が分からない事案では、最終手段である強制執行が失敗する可能性が高いため、賃料のみを請求するという選択肢は取らないほうが良いといえます。

明渡し請求をする場合の対応

賃貸借契約の解除

明渡しの請求には契約の解除が必要

賃借人は、賃貸借契約から生じる占有権原に基づいて建物を占有しています。

占有権原のある者に対して明渡し請求をすることはできませんので、賃借人に対して明渡し請求をするためには、賃貸借契約を終わらせて占有権原を消滅させる必要があります。そのために必要な行為が、オーナー様からの賃借人に対する契約の解除です。

解除とは

契約の解除とは、契約当事者の一方的な意思表示によって契約を解消させることをいいます(民法第540条1項)。

契約の解除には遡及効があり、契約は過去に遡って存在しなかったことになるのが原則ですが(民法第545条1項)、賃貸借契約の場合は将来に向かってのみ解除の効力が生じます(民法第620条)。

従って、賃貸借契約を解除しても、過去に受け取った賃料を賃借人に返す必要はありません。

契約の解除は意思表示であるため、原則として賃借人に到達した時からその効力が生じます(民法第97条1項、到達主義)。

解除の通知は配達証明付内容証明郵便を利用すべき

賃貸借契約を解除される際は、解除の事実を証明する証拠を作るという観点から配達証明付内容証明郵便を利用してください。

この点について補足説明をしますと、まず、内容証明郵便を利用することで、賃借人宛の郵便物に契約解除の意思表示が書かれていたという事実を郵便局に証明してもらえるようになります。

次に、配達証明をつけることで、郵便物が賃借人に配達されたという事実を郵便局に証明してもらえるようになります。

契約の解除は普通郵便で行うことも可能ですが、配達証明付内容証明郵便を使うことにより、「郵便物に解除の記載はなかった。」、「郵便物を受け取っていない」という賃借人の主張を封じることができます。

解除の内容証明に記載する内容

賃料の滞納を理由に賃貸借契約を解除するときは、民法第541条により「相当の期間を定めてその履行の催告」をしたことと、「その期間内に履行がない」ことが要件として求められます。

そのため、賃貸借契約を解除する内容証明には、①賃料の滞納額の指摘、②一定期間内に滞納賃料を支払えという請求(催告)、③滞納賃料の振込先口座、④解除の意思表示、などを記載することとなります。

また、解除の効力が生じた後の話として、「◯月✕日までに建物を明け渡してください」という請求も併記することが多いです。

解除の内容証明を発送するタイミング

賃貸借契約の解除をするためには、賃料の滞納という賃借人の債務不履行の事実に加え、賃料の滞納によって賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されたと評価できることが必要となります(信頼関係破壊の法理)。

賃料を何ヶ月分滞納すれば信頼関係の破壊が認められるという明確な数字は決まっていませんが、滞納が3ヶ月分に達したときは解除の効力が認められる可能性があるため、当事務所ではこのタイミングで解除の内容証明を発送することをおすすめしています。

契約の解除後にとるべき対応

賃借人からの反応がある場合

明渡しの請求を受けた賃借人から明渡しを前提とする返答が返ってきたときは、滞納賃料や敷金の取り扱い、原状回復の処理方法、明渡しの時期などの条件について交渉をすることとなります。

この交渉の際は、建物明渡し請求にかかる費用についても意識するのが合理的です。

交渉の結果、話がまとまったときは、適切な内容の合意書を作成することで、賃借人が約束に反して明渡しをしなかったときに提起する訴訟で容易に勝訴できるようになります。

賃借人からの回答が明渡しを拒む内容であったときは、滞納の金額や解除後の支払状況などを考慮して裁判をするかどうかを判断します。

賃借人からの反応がない場合

賃借人からの反応がない場合、任意の明渡しを期待することはできませんので、直ちに裁判を始めるのが合理的です。

建物明渡し請求をするときは、支払督促や少額訴訟の手続を利用することができないため、必ず通常訴訟を選択することとなります。

建物明渡し請求訴訟を提起するときは、賃借人及び保証人に対する滞納賃料の請求も同時に行うことが多いです。

訴訟提起後の対応

訴訟提起から明渡しの強制執行までの流れ

こちらの記事をご参照ください。

和解について

建物明渡請求訴訟では、「滞納した賃料を支払うから建物の使用を続けさせてほしい」、「建物を明け渡すから滞納した賃料等の支払を免除してほしい」などの要望が賃借人から出てくることがあります。

このような場合、オーナー様としては、賃借人の属性、賃料回収の可能性、判決ルートで解決をする場合の経済状態などを考慮した上で和解に応じるかどうかを判断することとなります。

判決が出た後で賃借人から同様の提案が出たときは、上記に加え、賃借人が約束の日に出ていかないことによるリスクも考慮する必要があります。

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