後遺症の適正な賠償を請求したい方へ

後遺症と後遺障害の違い

日常用語で使用する「後遺症」は、治療をしても治らずに残っている何らかの症状という意味で使用されています。

一方、「後遺障害」は、自賠責保険の制度の中で出てくる単語であり、具体的には自賠法施行令2条1項2号が、後遺障害=傷害が治ったとき身体に存する障害と定義しています。

後遺障害の意味を上記のように広く捉えると両用語の間には大きな違いはなく、どちらの用語を使用しても良いこととなりそうです。

しかし、損害賠償請求の場面では、自賠責保険の制度を中心に損害額を捉えるためか、「後遺障害」という用語を使用することが圧倒的に多いです。

後遺障害という用語に関しては、国土交通省が定めた自賠責保険の支払基準に、”後遺障害による損害は自賠法施行令の別紙が定める等級に該当する場合に認める”旨が定められています(自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(以下「自賠責保険支払基準」と表現します。)の第3を参照)。

このように、自賠責保険の制度では、後遺障害のうち自賠法施行令の別紙が定める等級に該当するもののみが、損害の発生を認められ保険金の支払対象となります。

このHPでも、後遺障害=自賠法施行令の別紙が定める等級に該当する後遺障害という意味で使用しています。

経験上、医師が後遺障害の等級認定基準を意識して患者と話している可能性は高くないように感じられます。従って、治療中の医師から「後遺症が残るだろう」と言われた場合でも、後遺障害の等級が認定されないことはありえます。

後遺障害が認められることによる賠償額の増額

後遺障害の等級が認定されると、後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益という損害の請求をできるようになり、賠償額が大幅に増額されます。場合によっては将来介護費という損害項目が増えることもあります。以下では、これらの損害項目の概要を説明いたします。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことにより被った精神的苦痛に対する慰謝料のことで、自賠責基準、任意保険基準、裁判基準の3種類の算出方法があります。

自賠責保険からの支払額

後遺障害の等級が認定されると、自賠責保険からは後遺障害慰謝料として以下の保険金が支払われます(自賠責保険支払基準の第3の2参照)。等級ごとに定額となっているのが特徴です。

別表第一(介護を要する後遺障害)

等級慰謝料額保険金総額
第1級1650万円4000万円
第2級1203万円3000万円

別表第二

等級慰謝料額保険金総額
第1級1150万円3000万円
第2級998万円2590万円
第3級861万円2219万円
第4級737万円1889万円
第5級618万円1574万円
第6級512万円1296万円
第7級419万円1051万円
第8級331万円819万円
第9級249万円616万円
第10級190万円461万円
第11級136万円331万円
第12級94万円224万円
第13級57万円139万円
第14級32万円75万円

なお、上記の表のうち「保険金総額」は、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を含んだ保険金の総額のことです(自賠法施行令の別表第一、第二参照)。

裁判基準による請求

自賠責保険から支払われる後遺障害慰謝料は、裁判をしたときに認められる後遺障害慰謝料(裁判基準による後遺障害慰謝料)の一部にすぎません。

従って、自賠責保険から後遺障害慰謝料を受け取った後も、加害者(任意保険会社)に対し、裁判基準による後遺障害慰謝料との差額を請求することができます。

裁判基準による後遺障害慰謝料額について、赤い本には以下の金額が載っています。

第1級第2級第3級第4級第5級第6級第7級
2800万円2370万円1990万円1670万円1400万円1180万円1000万円
第8級第9級第10級第11級第12級第13級第14級
830万円690万円550万円420万円290万円180万円110万円



後遺障害逸失利益

計算式と例

後遺障害逸失利益とは、後遺障害によって労働能力が低下し将来の収入が減少することによって被る損害のことで、基礎収入✕労働能力喪失率✕労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数という計算式で算出します。

後遺障害逸失利益は、被害者の収入額と年齢によって金額が大きく変動しますので、イメージをつかむために計算式の一例を挙げておきます。

【後遺障害逸失利益の計算例】

 症状固定日時点で35歳、年収が600万円あった男性が、後遺障害等級10級に該当した場合の計算式は以下のようになります。

  600万円  ✕   27%   ✕   20.389   =3303万0180円

  基礎収入   労働能力喪失率  ライプニッツ係数

自賠責保険からの支払額

自賠責保険でも、後遺障害逸失利益の計算方法は上記と基本的に同じですが(自賠責保険支払基準の第3の1参照)、基礎収入の算出方法や、年齢によってはライプニッツ係数の算出方法が裁判基準と異なります。

自賠責保険には、保険金支払額に上限があるため(自賠法施行令の別表第一、第二)後遺障害逸失利益の全額を回収できないことが多いです。自賠責保険で回収しきれない後遺障害逸失利益は、加害者(任意保険会社)に請求することとなります。

現実の収入がない場合の後遺障害逸失利益

専業主婦(専業主夫)

専業主婦には現実の収入がありませんが、家事という仕事を行っており、後遺障害によって労働能力が低下することによる損害が生じていますので、後遺障害逸失利益を請求することができます。

基礎収入は、賃金センサスの第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とします。

兼業主婦の場合、実収入と平均賃金のうち高いほうが基礎収入となります。

学生・幼児等

学生や幼児のように未就労の子どもにも後遺障害逸失利益は認められます。

基礎収入は、賃金センサスを基礎に算出しますが、性別・年齢・就学状況などによって参照する統計値が変わります。

18歳未満の未就労者は、ライプニッツ係数を算出する際、「67歳までのライプニッツ係数-18歳に達するまでのライプニッツ係数」という特殊な計算をするため、中間利息を5%で計算していた民法改正前は幼児のライプニッツ係数が非常に低くなっていました。

失業者

労働能力と労働意欲があり、就労の蓋然性がある場合には後遺障害逸失利益が認められます。失業前の収入を参考に、再就職によって得られるであろう収入が基礎収入となります。

将来介護費

将来介護費とは、被害者に介護を必要とする後遺障害が残存した場合に、将来にわたって発生する介護費のことをいいます。

後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益と異なり、将来介護費が認められるのは重篤な後遺障害が残った場合に限られます。自賠法施行令で将来介護費について言及しているのは別表第一の第1級と第2級のみですが、3級以下の後遺障害に該当する場合でも将来介護費が認められることはあります。

計算式

将来介護費は、介護費の日額✕365日✕平均余命までのライプニッツ係数という計算式で算出するのが基本です。

将来介護費の日額

将来介護費は、職業人が介護をする場合のみならず、近親者が介護をする場合であっても請求をすることができます。

ただし、両者では1日あたりの介護費が異なっており、職業人介護の場合は実費額、近親者介護の場合は1日あたり8000円が基本となります。3級以下の後遺障害の場合には1日あたりの介護費が8000円よりも低くなる傾向が強く、過去の裁判例からは、3級で3000円~5000円程度、5級で2000円~3000円程度が金額の目安となります。

3級以下の等級で将来介護費が認められる場合

将来介護費は後遺障害の等級が3級以下の場合にも認められることはありますが、どのような後遺障害があれば認められるのかについて明確な基準はありません。

過去の裁判例では、高次脳機能障害や頸髄損傷による四肢麻痺がある場合に将来介護費が認められている事案が多いです。

裁判例が多い高次脳機能障害の事案では、3級、5級に加え、7級で将来介護費が認められているものもあります。

後遺障害の等級を認定する手続

自賠責損害調査事務所による等級認定

自賠責保険には後遺障害の等級を認定する手続が整備されていますので、交通事故の被害者は、まずは自賠責保険の制度内で等級認定をしてもらうのが一般的です。

自賠責保険での後遺障害の等級認定は、損害保険料率算出機構という団体が設置している、自賠責損害調査事務所が行うのが原則です。等級認定を請求する方法には被害者請求(16条請求)・事前認定という2つの方法があります(詳細な説明は省略します。)。

自賠責損害調査事務所の判断に不服がある方は、異議申立という手続を行うことにより、再度の判断を求めることができます。異議申立に対する判断は、損害保険料率算出機構に設置された自賠責保険審査会が担当します。

労働基準監督署による等級認定

通勤中に交通事故に遭った場合などには、自賠責保険に加えて労災保険を使用することができます。労災保険にも後遺障害の等級を認定する手続が整備されていますので、労災保険を使用できる事案では労災保険内で等級認定をしてもらうことも可能です。

自賠責保険と労災保険は併用することもできるため、自賠責保険での等級認定結果と労災保険での等級認定結果が異なることもあります。自賠責保険と労災保険の等級認定基準は原則として同じですが(自賠責保険支払基準の第3を参照)、認定者と手続が異なるためこのような結果が生じえます。

裁判所による等級認定

自賠責調査事務所や労働基準監督署による等級認定は裁判所の判断を拘束しません。そのため、自賠責調査事務所による等級認定に不服のある被害者が裁判をしてより高い等級が認められる可能性もありますが、反対に低い等級が認められてしまう可能性もあります。

したがって、保険会社との交渉をする際は、”裁判をしたときに等級が下がるリスクはないだろうか”という観点からの検討が必要となります。

後遺障害診断書について

自賠責保険の手続で後遺障害の等級認定をしてもらうためには、必ず、「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」という書式の診断書(後遺障害診断書)を提出する必要があります。

後遺障害診断書の用紙は保険会社から取り寄せることができますので、用紙を手に入れたら担当医に渡して内容を書いてもらうことにより完成させます。

担当医が後遺障害診断書を書いてくれないときは、転院するなどして協力をしてくれる医師を探すこととなります。

後遺障害診断書には、認定されるべき後遺障害の等級認定基準を踏まえ、十分な情報を記載する必要がありますが、多くの医師は基準を熟知しているわけではないため書き漏らしが発生する可能性があります。

後遺障害診断書は、等級認定の際に中核となる重要な資料ですので、保険会社に提出をする前に弁護士によるチェックを受けることをおすすめします。

後遺障害案件を弁護士に依頼をするメリット

後遺障害が残る事案では、弁護士は示談成立までの各段階で以下のサービスを提供することで適正な賠償を実現します。

1ヶ月以上の入院が必要な事案、高次脳機能障害が疑われる事案、骨折をした事案などでは、事故直後の段階で弁護士が関与した方が適正な等級認定の可能性は上がりますので、なるべく早期に弁護士に相談をされることを強くおすすめします。

治療中

交通事故の直後に弁護士に依頼をした場合、傷病名・医師の見解・自覚症状などをもとに、将来、どの等級の後遺障害が認定されうるのかをある程度予測することができます。

この予測をもとに、治療中に必要な検査を受けることができているか、担当医と被害者との間で必要な情報共有ができているかなどをチェックすることにより、然るべき等級が認定される可能性を高めることができます。

症状固定後

後遺障害診断書をチェックすることにより、検査漏れや後遺障害診断書の記載不足を訂正することができます。事案によっては担当医と面会をして意見書を作成してもらうなど、等級認定に必要な資料を補充することもできます。

事前認定よりも被害者請求の方が適切な場合は、被害者請求に必要な手続を弁護士が行い、さらに弁護士の意見書を提出することもできます。

自賠責損害調査事務所による認定後

本来あるべき等級が認定されなかった原因を分析し、等級認定に必要な検査や資料収集を行った上で異議申立をすることができます。

等級認定手続が終わった後

損害額を正確に計算の上、裁判基準をベースとした示談をすることができます。

示談の際は、等級認定結果が裁判で覆る可能性まで考慮しますので、適切なリスク判断のもとで合理的な示談をすることができます。納得のいく示談ができなかったときは訴訟提起をすることができます。

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