財産分与を請求したい

財産分与とは

財産分与とは、夫婦が離婚をする場合に、婚姻中に夫婦が築いた財産を分配することをいいます。法律の規定としては、民法第768条1項が、「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」と規定しています。

財産分与は、協議離婚・調停離婚・裁判離婚のいずれの場合にも請求することができ、婚姻後に専業主婦をされていた方からも請求をすることができます。

財産分与をするタイミング

財産分与は、弁護士が関与する事案では離婚と同時に行うことが多いですが、先に離婚をした場合でも離婚の時から2年間は請求することができます(民法第768条2項但書)。

財産分与の種類

財産分与には、①清算的財産分与、②扶養的財産分与、③慰謝料的財産分与、という3種類のものがあります(最判昭58.12.19)。

清算的財産分与

夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を精算することを内容とするもので、財産分与の中心となるものです。精算の対象となる財産には、不動産・預貯金・有価証券・生命保険など、原則としてあらゆる財産が含まれます。

単に財産分与という言葉が使われるときは、清算的財産分与の意味で使われることが多いです。

扶養的財産分与

離婚をすることで夫婦の一方が経済的に困窮する場合に、その人の生計を維持するために支払われるものです。

支払われる金額については、生活のために必要な金額を、自活できるようになるまで支払う、という抽象的な説明をすることも可能ですが、義務者の財産状況なども考慮され、明確な計算式はありません。従って、金額を正確に予測することは難しく、請求が認められないことも多いです。

慰謝料的財産分与

不貞やDVなど、配偶者の有責な行為によって離婚に至った場合、配偶者に対し、離婚により被った精神的苦痛に対する慰謝料を請求することができます。

慰謝料は、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法第709条、710条)という性質を有するため、財産分与(民法第768条)とは性質が異なっています。しかし、財産分与は、「一切の事情」(民法第768条3項)を考慮して内容を決めることができるため、慰謝料を財産分与に含めて請求することもできます(最判昭和58.12.19)。

通常の慰謝料請求とは異なり、金銭以外の物の分与を求めることができるという特徴があります。

財産分与の対象となる財産

預貯金

原則として別居開始時の残高が財産分与の対象となります。

別居開始よりも前に多額の出金が行われている場合、その金額が存在するものとして扱われる場合があります。

不動産

自宅であるか収益物件であるかにかかわらず、財産分与の対象となります。

不動産の価格は預貯金のように明確ではないため、評価額を算出する必要があります。不動産の評価額を算出する方法としては、不動産業者に査定書の作成を依頼するのが費用対効果のバランスが良くおすすめです。

評価額を算出すべき時期は、後述のように離婚時または口頭弁論終結時ですが、実際にはそれよりも前に査定書や鑑定書が作成されます。

住宅ローンが残っている場合、不動産の評価額から住宅ローンの残額を差し引いて評価額を計算することが多いです。

不動産を売却する場合は、売却代金から仲介手数料等の経費を差し引き、手元に残った金額を分けることとなります。一方、夫婦のどちらかが不動産を所有し続ける場合は、不動産の評価額を基準に計算を行い、金銭を支払う形で精算をします。

保険

生命保険や学資保険など、貯蓄型の保険は財産分与の対象となります。一方、掛け捨て型の保険には財産的価値がないため、財産分与の計算には組み込まれません。

保険の評価額は、保険会社に別居開始時点における解約返戻金額の証明書を発行してもらうことで知ることができます。

保険を解約する場合は、支払われた解約返戻金を分けることとなります。保険を解約しない場合は、解約返戻金の証明書をもとに精算額の計算を行い、金銭を支払う形で精算します。

有価証券

株式・投資信託・国債などの有価証券も財産分与の対象となります。

有価証券は価格が変動するため、2種類の基準時を考える必要があります。上場企業の株式を例に挙げて説明しますと、財産分与の対象となるのは別居開始時に保有していた銘柄の株式ですが、その評価額は離婚時又は口頭弁論終結時の時価で計算します。

別居開始後に株式が売却されてしまっている場合は、実際の売却価格を評価額とすることがあります。

非上場の株式には明確な市場価格がないため、評価額に争いが生じることがあります。このような場合、公認会計士が作成した鑑定報告書などによって評価額を立証することになります。

退職金

退職金が既に支払われている場合は現に残っている金額が財産分与の対象となります。

退職金が未だ支払われていない場合、将来退職金を受け取れる可能性が非常に高いと認められるときは財産分与の対象となります。

この判断を行う際は、退職金を支給する規定の有無・退職までの年数・勤務先の性質などを考慮します。

退職まで10年以上ある場合は財産分与の対象と認められない可能性が高くなりますが、公務員などの場合は認められることもあります。

自動車

自動車は財産分与の対象となります。

基本的な考え方は不動産と同じです。評価額は買取業者に査定をしてもらうのが一般的です。

医療法人の出資持分

医療法人が平成19年3月以前に設立されている場合、これに対する出資持分がある場合があります。

医療法人の出資持分は財産分与の対象となりますが、その評価方法には様々な方法があります。最近の裁判例では、純資産価額を基準としつつその7割をもって出資持分の評価額とした、大阪高判平26.3.13などがあります。

平成19年4月1日以降は、医療法の改正により、そもそも出資持分のある医療法人を設立することができなくなっています。

債務

債務は財産分与の対象とはならないが、財産分与を行うにあたり考慮するという考え方が一般的です。

具体例で説明をしますと、夫が1000万円の住宅ローンを負担している場合、住宅ローンのうち500万円を妻の債務にするという処理はしませんが、不動産の評価額から1000万円を控除するという意味です。

この考え方は裁判をした場合のものなので、夫・妻・金融機関の3者の合意があれば、協議で上記と異なる処理をすることは可能です。

オーバーローンの場合に、ローン残高+不動産の評価額=0円として扱うのか、ローン残高と不動産の評価額との差額を預貯金などの他の財産と通算できるのか、については見解が分かれています。

財産分与の基準時

財産分与の基準時には、①財産分与の対象財産を確定する基準時と、②財産の評価額を決める基準時、の2つの種類があります。

①財産分与の対象財産を確定する基準時

財産分与は夫婦の協力によって築いた財産を分配する手続ですので、夫婦の協力関係がなくなった時点で財産関係を精算すべきという考えが成り立ちます。

夫婦の協力関係がなくなるのは別居開始日であることが多いため、実務上は別居開始日をもって財産分与の対象財産を確定するのが一般的です。

別居開始後も協力関係が続いている事案では、別居開始よりも後の時点が基準時になることはありえます。

②財産の評価額を決める基準時

不動産や有価証券などは、別居開始日から離婚の成立時までの間に評価額が変動します。これらの財産は、夫婦が協力することとは無関係に評価額が変動しますので、その価格変動によるリスクを一方に負わせるのは公平ではありません。

このことから、財産の評価額を決める基準時は離婚成立時(裁判をしたときは口頭弁論終結時)と考えられています。

注意すべきこととして、例えば預貯金は別居開始時の残高が財産分与の対象となります。なぜならば、別居開始後の預金の増減は別居開始後に新たな取引を行うことによって生じるものであり、預金に対する評価額が変わるために生じるものではないからです。

財産分与の対象とはならない特有財産とは

財産分与は婚姻中に夫婦が築いた財産を分配する手続であるため、夫婦の協力によって築いた財産とはいえない個人的な財産は財産分与の対象となりません。

婚姻前に取得した財産

夫婦の一方が婚姻前に取得した財産は財産分与の対象とはなりません。

しかし、例えば、婚姻前に不動産を取得していても、婚姻後に夫婦の収入でローンの返済をしていたというような場合は、婚姻前後の支払額の割合に応じて財産分与の対象にするのが一般的です。

相続で取得した財産

相続で取得した財産も財産分与の対象とはなりません。

もっとも、夫婦の一方が相続財産に対して特別な貢献をした場合には、相続で取得した財産も財産分与の対象となることがあります。

専用財産

衣服や宝石のように、夫婦の一方しか使わない物はその人専用の財産ということで財産分与の対象とならないことがあります(合計約110万円で購入した宝石が財産分与の対象とならないと判断した審判例として名古屋家審平10.6.26)。

物の値段が高すぎるなど、事情によっては、夫婦の一方しか使わないように見える物も財産分与の対象となることはありえます。

交通事故の損害賠償金

事情次第で色々な考え方がありうる項目ですが、慰謝料に相当する部分は財産分与の対象とならないとする一方で、逸失利益に相当する部分は財産分与の対象となるという見解が合理的と考えております。

ギャンブルで作った借金

債務はそもそも財産分与の対象ではありませんが、ギャンブルで作った借金などのように家計の維持と無関係な債務は、財産分与の際に考慮すらしないのが一般的です。

財産分与の割合

原則として2分の1です。

夫婦の一方の特別な才能や努力によって多額の財産が形成されたと評価される場合には、割合が修正されることがあります(夫が医師で財産額が約3億円の事案において分与割合を夫6:妻4とした大阪高判平26.3.13など)。

財産分与をする手続

夫婦間の協議

財産分与は夫婦間の協議(話し合い)で内容を決めるのが原則です。

協議で財産分与の内容が決まったときは、証拠として残すために離婚協議書(離婚時の約束事を記載した文書で、離婚届とは別のものです)を作成すると良いです。

約束内容の不履行などが懸念される事案では、公正証書の形で離婚協議書を作ることもあります。

調停

夫婦間で財産分与の協議が調わないときは、まずは家庭裁判所に調停の申立をして、調停で財産分与を行うことになります。

申立をする調停の種類は、離婚前であれば夫婦関係調整調停を申し立てて、付随申立として財産分与の請求を行うことになります。

一方、離婚後であれば財産分与の調停を申し立てることになります。財産分与は調停前置(家事事件手続法第257条1項)ではないため、法律上は調停を申立せずに審判の申立をすることも可能です。

しかし、裁判所の職権で調停に付される(家事事件手続法第274条1項)ことが多いため、まずは調停を申立するのが一般的です。

裁判

調停でも財産分与が調わないときは、家庭裁判所の裁判で財産分与の内容を決定します(民法第768条2項)。

具体的には、離婚前であれば離婚訴訟を提起し、離婚訴訟の付帯処分として財産の分与に関する処分を求めることとなります(人事訴訟法第32条1項)。この場合、判決という形で財産分与の内容が示されます。

一方、離婚後であれば、財産分与の調停が不調に終わった時点で自動的に審判手続に移行しますので(家事事件手続法第272条4項)、調停の申立をしていれば改めて審判の申立をする必要はありません。

この場合、審判という形で財産分与の内容が示されます(家事事件手続法第39条)。

財産分与を弁護士に依頼するメリット

財産分与を弁護士に依頼する最大のメリットは、本来受け取るべき財産を受け取れる可能性が高くなることにあります。

財産隠しへの対応

婚姻中の財産管理を配偶者に委ねていたという事案では、夫婦の財産として何があるのかが全く分からないということも珍しくありません。このような事案では、配偶者が正直に財産を開示してくれないことにより、過小な財産しか分与してもらえないという事態が生じえます。

財産分与の依頼を受けた弁護士は、通常は23条照会や裁判が始まった後の調査嘱託などを利用することによって新規の証拠を入手し、証拠を精査することによって新たな財産を発見するといった業務を行いますので、弁護士への依頼によって財産隠しに対応できる可能性が上がります。

適切な主張を行えるようになる

財産分与には、何が特有財産になるのかや財産の評価方法など検討すべき点が多数あることに加え、各論点について下級審レベルで一見異なった判断がされていることも珍しくありません。

財産分与を弁護士に依頼することにより、適切な主張を行うことが可能となり、取りこぼしを防ぐことができます。

早期解決の可能性

普通の弁護士は裁判所の判断を予測しながら業務を行いますので、合理的な交渉を行うことで協議が円滑に進み、早期解決をできる可能性が上がります。

勿論、交渉は相手のあることですので、相手が不合理な主張にこだわる場合には裁判手続を利用せざるをえません。

この場合であっても、ズルズルと交渉を続けることを避けることによって解決までの時間が短縮されます。

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